Activity Report
15年目の3.11に寄せて~福島の生産者からのメッセージ~
2026年3月、私たちは東日本大震災、そして東京電力福島第一原発事故から15年という、決して忘れることのできない歳月を数えます。
あの未曾有の被害から一歩ずつ力強く立ち上がってきた福島の生産者のみなさんは、「原発に頼らない再生可能エネルギーによる農業と地域復興」という、未来への希望を自らの手で築き上げてきました。
このたび、伊藤 俊彦さん(須賀川市)、佐藤 彌右衛門さん(喜多方市)、大内 督さん(二本松市)から、15年の苦難と再生の道のりを振り返り、持続可能な未来を展望するメッセージをご寄稿いただきました。
震災の記憶を風化させることなく、私たちが目指すべき「これから」を、みなさんと共に生産者の言葉から学んでいきたいと思います。
伊藤 俊彦(いとう としひこ)さん/株式会社ジェイラップ 会長
【伊藤 俊彦さんのプロフィール】
1995年、地元農協を経て、「稲田稲作研究会のコシヒカリ」の販売元である「株式会社ジェイラップ」を設立。
1993年の冷夏で米の大不作をきっかけに、大地を守る会と「大地を守る会の備蓄米(※)」をスタート。
※収穫前に米を予約購入するしくみ。現在は「米蔵熟成 稲田稲作研究会のコシヒカリ(頒布会)」として継続。
2011年福島原発の事故直後から、放射能の自主測定による販売をいち早く行い、また除染について自分たちで学び、独自の除染方法を開発した。
震災後は原発に頼らないエネルギー自立を掲げ、太陽光発電を積極的に導入。田んぼでのソーラーシェアリングも地元で先駆的に導入、現在は15箇所に設置している。
東日本大震災~15年を経て
あれから15年も経つんですね。
この地で育んで来た「家族や仲間との暮らしを失ってしまうのか?」という不安から抜け出すまでにどれ程の時間を費やしたのだろう?放射性物質による影響からの回避策を無我夢中で学び、再起をかけた挑戦は新たな知見を柔軟に取り入れては検証を繰り返す道でした。風評で終わるのか?実害を伴うのか?確たる安堵を得るために抗い続けた日々の先に現在があります。
太陽光発電に着手するきっかけとなったのは、震災後の賠償や復興支援に頼らない「早期自立」を目指した試行錯誤の中にありました。賠償金や支援金も課税対象なので「自立に向けた設備投資に向ける」といっても情報精査しながら事業計画を企てるには時間が足りませんでした。復興政策の中にあった「脱原発」「再生可能エネルギー」のフレーズと減価償却期間の「前倒しプログラム」は特に目を引きました。
早速ミニマムな導入を図り、結果を踏まえて拡大してきた次第です。
抱えきれない程の問題を抱えながら日本の食料自給力は極度まで脆弱化しています。高齢化が深刻化する中で担い手不足への対策が進んでいない農業の現状を変えていかない限り、令和の米騒動とは比べものにならない事態に遭遇することになるでしょう。この危機に対し、農業政策だけで好転できるタイミングは逸してしまいました。
現在、太陽光発電による「売電収入」を営農投資資金として活用していますが、次の段階は自給エネルギーとしての直接活用を考えています。農業生産に係るエネルギー自給によって生産コストの低減化を図るだけでなく、多様な電化システムの構築は夢を持てない農業に夢を与えるきっかけになっていくのかもしれません。「地熱」「風力」「バイオマス」などの再エネと農業のコラボも有りだと考えます。
成功事例に「学ぶ」ことも大事ですが、今後は夢の具現化のために「考える」ことを軸とした農業を意識していきたいと思っています。
稲田稲作研究会のメンバー
「米蔵熟成 稲田稲作研究会のコシヒカリ(頒布会)」は、1993年の大冷害による深刻な米不足を教訓に、ジェイラップと大地を守る会でその年に収穫する米をあらかじめ予約登録いただくことで「不作でも優先的に米をお届けできる」システムを作り、現在まで継続しています。
佐藤 彌右衛門(さとう やうえもん)さん/合資会社大和川酒造店 会長、会津電力株式会社 特別顧問、会津エナジー 株式会社 代表取締役
【佐藤 彌右衛門さんのプロフィール】
大地を守る会オリジナル純米酒「種蒔人(たねまきびと)」の酒蔵で創業235年を超える大和川酒造店(福島県喜多方市)の九代目。
震災後、地元・福島県会津の自然を活用した新しい電力の構想を進め、 2013年、福島県の市民有志と共に会津電力株式会社を設立し、初代社長に就任。再生可能エネルギーでの発電・熱供給を担ってきた。
更に発電した電気を地元に供給するために会津エナジー株式会社を設立し(2020年設立、2021年電気の販売開始)、持続可能な社会づくりをすすめている。
合資会社 大和川酒造店:https://www.yauemon.co.jp/
会津電力 株式会社:https://aipower.co.jp/
会津エナジー 株式会社:https://aizu-energy.co.jp/about/
水と食料とエネルギーによる地域の自立について
2011年、東京電力株式会社福島第一原子力発電所による未曾有の原発事故から15年という歳月が過ぎようとしています。 原発に依存した電力供給の状況に無関心だった私たちの反省と未来への責任として、有志が集い2013年に会津電力株式会社を立ち上げ、再生可能エネルギー(自然力由来による発電と熱利用)の発電所を創り続けました。それは水力・風力・太陽光・地熱・バイオマスなどを組み合わせる再生可能エネルギーで、現在会津各地域分散による発電所を建設中(令和7年10月現在113箇所稼働)です。また、令和5年には風力発電の風車を3基稼働させました。 これからは会津地域に住む私たちがこの安全安心の電力を利用し、使用する電気料金を、他所の電力会社や企業域外へ流出させることなく、地元に還流してもう一度会津地域の雇用と収入増、文化や経済、子供達の未来への投資に使えるようにして行く為に、会津エナジー株式会社を2021年に始動いたしました。水と食糧とエネルギーの自給により会津の人々は一体となってその力を発揮し、日本の各地方の見本となることが可能と信じます。
大和川酒造店の「大地を守る会オリジナル純米酒「種蒔人(たねまきびと)」は、稲田稲作研究会のお米を使用。生産者、酒蔵、大地を守る会が協業して開発しました。三者の想いをぜひ味わってください。
写真:「会津電力」「会津エナジー」を立ち上げた佐藤 彌右衛門さん/大和川酒造店九代目
大内 督(おおうち おさむ)さん/二本松有機農業研究会 代表
【大内 督さんのプロフィール】
二本松有機農業研究会は、大地を守る会にきゅうり、いんげんなどを出荷。
福島原発事故を機に、これからは農業だけでなくエネルギーでの自立が不可欠と、再生可能エネルギーの取り組みを模索する中、「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」と出会い2018年8月に導入。
2013年に大地を守る会が開催した「顔の見えるエネルギープランコンペ」で奨励賞を受賞したことも取り組みのきっかけになった、と大内さんは振り返る。
ソーラーシェアリングによる震災復興
2011年3月の福島原発事故による放射能で、我々が大事にしていた圃場がが放射性物質による影響を受け、これからどうしたらいいか悩み、苦しみました。
そんな中で福島の再生、農業の再生を考えようといろいろな先生方のお話を聞き、福島でこそ有機農業なんだと農業を行う意義を思い起こされるとともに、原発事故を機に、今までエネルギー問題に関して無知だったことを反省致しました。
コンセントに差し込めば機器は動き、スイッチを入れれば明かりがつくことが当たり前のようになり、そのエネルギーがどこからくるのかなど、深く考えもしませんでした。
このことを反省し、農家でも何かできるのではないかと、すぐにエネルギー部会を立ち上げ勉強しました。当初、生ごみや家畜糞尿、エネルギー作物など活用したバイオマスガス発電を検討しましたが、設備や費用面での難しさを知ることとなり、今の自分たちの力で事業化できそうな「ソーラーシェアリング」による太陽光発電へと舵が切られました。
ソーラーシェアリングの導入には、農業委員会から設置許可を得るまでに1年3か月も時間がかかったり、銀行から融資審査も20年間の営農保障に重点がおかれ厳しく審査されるなどのいくつものハードルを越えて2018年8月にやっと完成することができました。パネルの下では夏に大豆、冬には小麦を栽培。売電収入も得られることで当会の運営の助けになっています。
完成から7年が経過しました。ここ数年の異常気象により作物の収量が予想どおりにいかないという課題を抱えていますが、発電は順調で安定した売電収入を得られています。
また、この取り組みを一緒に行った仲間が会社を興してソーラーシェアリングを大規模に始め、地域全体で再生可能エネルギー普及や若者の農業参入など、福島の新しい未来作りの第一歩に繋がっています。
ソーラーシェアリングの下で、大豆が元気に育っています(2019年9月「大地を守る・くらしからエネルギーを考える会」メンバー訪問時)
「私たちのソーラーシェアリングの取り組みが映画で紹介されました。機会がありましたらぜひご覧ください(大内さん)」 『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』(2022年公開):https://saibancho-movie.com/
